林巨正と『林巨正』 林巨正と『林巨正』
林巨正は16世紀の朝鮮に実在した人物である。楊州の白丁(屠殺業者あるいは柳器製造者の賤称）出身といわれる。黄海道を中心とする地域でさかんな盗賊行為をおこない、役人の身分を名乗って郡県に出入したり、地方に赴任してくる役人を襲ったり、あるいは朝廷のお膝元である漢城で獄の襲撃をたくらむなど、公然と反逆行為をおこなった。朝廷は南致勤を討捕使に任命して巨正の討伐を命じ、官軍に追われて九月城にたてこもった巨正は、1562年1月に捕われて処断された。
林巨正の名は官製史料である明宗実録に記録されているほか、『寄斎雑記』などの野談や個人の文集にも記述され、また口碑説話としても残っている。こうした記録をもとにして、20世紀の前半に洪命憙（1888〜1968）によって書かれた歴史小説が『林巨正』である。
『林巨正』は1928年11月に朝鮮日報で連載が始まり、作者の投獄や病気で中断しながら11年間にわたって続いたが、結局未完で終った。この長編小説によって巨正の名は有名になり、解放後、他の作家によっても小説化された。最近では北朝鮮で映画化、韓国でテレビドラマ化されている。